脳卒中とは

脳卒中は脳血管の異常により急な脳障害を来たす病気です。発症の様式から3タイプに分けられます。

  1. 脳出血(脳の血管が破綻して脳内に出血が広がり、脳組織が壊される)
  2. くも膜下出血(動脈瘤が破裂して、くも膜下の脳の表面に出血が広がって脳組織が障害される)
  3. 脳梗塞(脳の血管が血栓1)、塞栓2)により閉塞し、血流が途絶えるために脳組織が壊される)
    血栓1):動脈硬化で細くなった血管で血液の流れが悪くなり、血液が固まって塞がってしまう状態
    塞栓2):他部位で出来た血栓が血流に乗って流れ着いて塞がってしまう状態

脳出血、くも膜下出血を出血性脳卒中(出血性脳血管障害)、脳梗塞を虚血性脳卒中(虚血性脳血管障害)と呼ぶこともあります。くも膜下出血の頻度は大きく変わっていませんが、近年では食生活の変化と降圧薬の普及によって、血管壁が脆くなって破れるタイプの動脈硬化が減って、血管壁が厚くなって内腔が狭くなるタイプの動脈硬化が増えているため、脳出血は減って、脳梗塞が増えています。最近の統計では脳卒中全体のうち、虚血性脳卒中は7-8割程度、出血性脳卒中は2-3割程度といわれています。

脳梗塞について

1.脳梗塞の分類

脳梗塞は①ラクナ梗塞、②アテローム血栓性梗塞、③心原性脳塞栓に分けられます。
(以下の写真のMRI画像の矢印が示している白く見える部分が梗塞の部位です。)

  1. ラクナ梗塞
    story01-3脳の中を穿通する細い動脈(1mmにも満たない)が動脈硬化を起こし血管内腔が狭くなり、最終的に血栓が出来て血管を閉塞して生じる脳梗塞です。ラクナ(lacuna)は小さい空洞の意味で、直径15mm未満の小さい梗塞です。この梗塞の危険因子としては高血圧が一番問題となります。この細い動脈は高血圧で血管壁が脆くなって破れることもあり、出血を起すこともあります。
  2. アテローム血栓性梗塞
    story01-4動脈の内壁にコレステロールが沈着して内壁が厚くなっている状態をアテロームと呼びます。このアテロームによって血管内腔が著しく狭くなり、血栓が出来て閉塞して脳梗塞を起します。ラクナ梗塞の場合と異なり、太い動脈にも生じる病変です。この梗塞の危険因子としては高脂血症、糖尿病、肥満、高血圧、喫煙などが知られています。これらの危険因子が近年増加していることより、この病型の脳梗塞は増加しています。
  3. 心原性脳塞栓
    story01-5房細動や心筋梗塞などで心臓の動きが悪くなり、心臓内の血流の停滞した部分に血栓が生じ、これが遊離して栓子(血栓のかたまり)となり、血流に乗って脳動脈に流入し閉塞(塞栓形成)します。大きい栓子により大梗塞になることもあります。心房細動は高齢者に多く、近年この病型の脳梗塞は増加しています。

2.脳梗塞(脳卒中)の症状

症状からだけでは、脳梗塞と脳出血と明確に分けることは出来ません。ここでは脳卒中の症状として以下に主だったものを列記します。

  1. 意識の混濁、意識がない
    脳の障害の範囲が広い時に意識が混濁してきます。少しぼんやりする程度の軽いものから、意識が全くなくなってしまう程の重いもの(昏睡状態)まで、障害の程度によって大きく幅があります。脳梗塞の場合であれば、大きな梗塞となったアテローム血栓性梗塞、心原性脳塞栓の時に、意識障害が出現します。
  2. 麻痺、脱力、しびれ、感覚鈍麻
    片側の手、足、顔面の半身に麻痺、脱力が急に出現することがあります。また、同様に半身のしびれが出現することがあります。運動の麻痺、感覚の障害とも症状の反対側の脳に病変があると考えられます。
  3. 言葉が出ない、理解できない
    意識はあるにもかかわらず言葉が出ない、出ても意味をなさない、限られた言葉しか出ない、言い間違えが多い、また、こちらの言っていることが理解できない、といった症状は、言語中枢の障害された状態であり失語症といいます。一般的に左の脳の障害で出現する症状です。
  4. 口がうまくまわらない
    お酒を飲んだわけでもないのに呂律(ろれつ)がうまく回らない状態を構音障害といいます。失語症と異なる点は発声される音は聞き取りにくくても、話す内容に問題はなく、言語理解も問題ありません。
  5. めまい、嘔気
    めまい、嘔気は脳の病気以外では内耳という耳の奥の部分の障害でも生じます。めまい、嘔気が直ぐに改善せず、構音障害、歩行障害、等の他の症状が伴う場合は脳卒中を疑う必要があります。
  6. 頭痛
    脳卒中のうち、くも膜下出血では突然の激しい頭痛で発症し、脳出血にも頭痛を認めます。脳梗塞では頭痛で発症することは少なく、大きな梗塞で稀に生じます。脳卒中の頭痛では嘔気を伴うことが多いです。
  7. 視野がかける
    視野の片側半分が欠けてうまく見えないといった症状は脳の後頭葉の障害が考えられます。脳梗塞で時々見られる症状です。
  8. 物がだぶって見える、目の動きが左右で異なる
    片目ずつで見る能力には問題がないのに、両目で見ると物がだぶって見える現象を複視といいます。目の動きに問題があって生じる症状です。ひどくなると他の人が外見から目の動きや位置に左右差があることが分かる様になります。
  9. うまく歩けない、手足の動きがぎこちない
    麻痺がなくてもバランスが悪くなってうまく歩けなくなる場合があります。また、手足の動きにスムーズさがなくなり、思った位置にうまく運べないといった症状を運動失調といいます。小脳の障害で生じます。
  10. 動作の異常
    いつも普通にできている動作がうまく出来なる場合があります。服を着る、TVのリモコンや携帯電話を使う、というような動作が出来ない症状を失行といいます。頭頂葉の障害で生じます。

《一過性脳虚血発作》
上記の症状(頭痛、めまいを除く)がある時間(一般的に2~15分程度)続いて消失することがあります。このような状態を一過性脳虚血発作といい、脳梗塞の前ぶれ症状と考えられます。未治療では数年以内に20-30%が脳梗塞になるというデータがありますので、そのまま放置せずに必ず病院を受診してください。

3.脳梗塞の治療

  1. 保存的治療
    外科手術以外の治療を総称して保存的治療と呼びます。一般的に脳梗塞の急性期には、手術治療をすることは少なく、点滴による治療が中心となります。抗血小板薬、抗凝固薬、脳保護薬、脳浮腫治療薬などの注射薬を梗塞の状態に応じて1~2週間点滴します。また、症状に応じて高圧酸素療法、リハビリテーションを行います。リハビリテーションについては、運動機能回復のための理学療法、日常生活動作獲得のため作業療法、言語機能または構音機能回復のため言語療法があります。急性期の点滴での治療は、漸次、内服薬の治療に切り替えていきます。この内服薬の治療の主たる目的は脳梗塞の再発予防であり、抗血小板薬、抗凝固薬などを内服していただきます。また、脳卒中の危険因子(高血圧、糖尿病、高脂血症)をお持ちの方は、その治療も併せて行っていきます。
    脳梗塞の治療において難しい点は、治療しているにもかかわらず病状の進行を認めることが少なくないことです。最新の日本における統計では(脳卒中データバンク2005年)脳梗塞全体の18%(約5人に1人の割合)に病状の進行が認められたと報告されています。
    再発予防の治療については、脳梗塞が動脈硬化という老化現象を元にしている病態から生じているため、歳を取る以上、途中でやめることなくずっと続けていかなければならないということになります。
  2. 手術治療
    脳梗塞の大部分は上記の保存的治療が採られますが、その中には手術治療が病態の悪化を防ぐのに有効な場合があります。
    脳梗塞の進行や再発を防ぐために行われる手術としては、頭皮下の血管と脳の血管とを吻合することにより、脳血流を増やす「頭蓋外-頭蓋内動脈吻合術(脳血管バイパス術)」、また、頚動脈の肥厚した血管内膜を除去して血流を増やし、また塞栓発生を防ぐ「頚動脈内膜剥離術」があります。また、メスで患部を切り開くことなく、カテーテルを用いて動脈の狭窄した部分をバルーン・ステントで拡張する「経皮的血管拡張術・経皮的ステント留置術」があります。このカテーテルを用いた治療を血管内治療とも呼びます。これらの治療は発症直後に行うことは少なく、ある程度時間をおいてから行われることが一般的です。
    この他には、「外減圧術(減圧開頭術)」があります。これは、上記の手術とは異なり、救命が目的の緊急回避的な手術です。大きな脳梗塞では、著しい脳浮腫を来たして、生命機能の中枢である脳幹が圧迫され、脳死に至る危険性があります。この手術では、大きく開頭して骨を外し、脳を包んでいる硬膜を切開して人工硬膜でつぎ当てして、脳の圧を外に逃がして、脳幹への圧迫を防ぐことを目的としています。
  3. 血栓溶解療法
    これは2005年10月に新しく認可になったアルテプラーゼ(t-PA)という薬によって行われる治療法です。脳梗塞の発症から早い時間帯(3時間以内)に点滴でこの薬を投与し、血管内に出来た血栓・塞栓を溶かして、血流を再開通させて脳梗塞になりかかっている脳を救うという治療法です。血流が改善することにより、症状が改善することが期待され、中には劇的に麻痺や失語症状などが良くなる場合があります。この治療を行うためには発症からできるだけ早く病院に到着することが重要になります。

4.脳梗塞の予防

《脳梗塞の危険因子》
  1. 高血圧 140/90以上 (130/85未満が理想)
  2. 糖尿病 空腹時血糖値 126mg/dl以上 (110未満が理想)
  3. 高脂血症 コレステロール 220以上  中性脂肪 150以上
  4. 喫煙
  5. 過度の飲酒 (日本酒換算で2合以上/日)
  6. 肥満
  7. 循環器疾患 (心筋梗塞・狭心症・弁膜症・不整脈・心房細動)
《生活習慣上のポイント》
  1. 家庭血圧を測定する
    高血圧は脳梗塞の一番の危険因子と考えられています。高血圧は脳出血の危険因子でもあり、高血圧を防ぐことが最も効果的に脳卒中を防ぐことにつながります。血圧は一日の中でも色々な要因により変動するものであり、外来受診時の血圧測定だけではその方の真の血圧が反映されない場合があります。重要なのは日々の平均的な血圧の数値を知ることです。起床後、就寝前の1日2回の血圧の測定を習慣づけることが脳梗塞予防の第一歩といえます。
  2. 塩分、糖分、脂肪分、カロリーの取りすぎに注意する
    医食同源という言葉がありますが、食生活は脳卒中の予防に大きく関わります。過剰な塩分摂取は高血圧を引き起こします。酢、香辛料などを利用して、塩分の少ない味付けに慣れるようにしてください。糖分の過剰摂取は糖尿病を、また、脂肪分の過剰摂取は高脂血症を引き起こします。糖分の多い清涼飲料やお菓子、脂肪分の多い油や卵黄を多く使った食品などの取りすぎに注意が必要です。特に肥満の方は摂取カロリーを減らすことが重要で、規則正しく食事を摂って、腹八分で満足し、空腹になってもすぐに間食をしない習慣づけをしてください。
  3. 習慣的に運動を継続する
    適度な運度は循環機能を高め、血圧を下げ、動脈硬化を予防する効果があります。また、肥満を予防または改善する上でも運動は欠かせません。時間を決めて、散歩、ジョギング等のスポーツ・レクレーションを習慣的に行うことが出来れば理想的ですが、それが無理でも、外出の際に歩く部分を増やす、エレベーターの替わりに階段を利用するといった日常的な工夫をする事でも十分意味があります。年齢、体力に合せて運動の内容は変える必要がありますが、少し息が弾む程度の運動で十分です。
  4. お酒は「ほどほど」に
    お酒は適度な量であれば血圧を下げ、動脈硬化を防ぐ効果があるといわれています。しかし、摂取過多になると高血圧、動脈硬化を誘発し、脳梗塞、脳出血のいずれの発症にも関わるといわれています。アルコールの適量は一日約20gまでで、酒の種類で換算すると、日本酒 1合、焼酎 0.5合、ビール 500ml、ワイン グラス2杯、ウイスキー 水割り2杯です。
  5. 禁煙の効果は絶大
    喫煙で体内に吸収されるタバコの成分(ニコチン、一酸化炭素など)は血管内皮細胞障害を起こし、血栓形成や動脈硬化促進に働いて脳梗塞の原因となります。喫煙者の脳梗塞にあるリスクは非喫煙者の2倍といわれています。このリスクは禁煙後に低下し、禁煙5年後には消失すると考えられています。
  6. ストレスを貯めない工夫を
    ストレスは脳卒中の直接原因とはなりませんが、血圧上昇、不整脈の発生などを引き起こし、間接的に脳卒中発症に関わる可能性はあります。睡眠時間・休憩・休養を十分に取る、気分転換を図るなどの自分なりのストレス対処法をみつけて実践してください。
  7. 脱水をさけ、早めに水分を補給する
    血液の中の水分の成分が少なくなる状態を脱水といいます。もともと血管に細い部分があると、この脱水の時に血流が十分に流れていかない状態となり、脳梗塞になってしまうことがあります。汗を多くかいた時には早めに水分を補給してください。また、深酒した後はアルコールの利尿効果で逆に脱水になっていることがあるので注意してください。